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ハーバーボッシュ法 その4 〜日本人の活躍〜

 

いらっしゃいませ!
今日もいいもの用意しときましたよ!

 

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  化学において最大の発明といっても過言ではないハーバーボッシュ法についてここ最近記事を書かせてもらっています。前回はさまざまな方法がなんとか作り出されたけど、電力の問題で工業化出来そうにないと言うお話をさせてもらいました。もう一つの合成方法としてアンモニア直接合成という方法もありますが、あまりうまくいきません。そんな中ハーバーがうまくいきそうな雰囲気。今日はそんなハーバーさんの方法に迫ります。

 

前回はこちら

ハーバーボッシュ法 その3 〜実現不可能とされた反応〜 - じょんのかがく喫茶

ある条件下で直接合成

    前回の最後、ルシャトリエもネルンストもハーバーもある条件でなら出来るということを発見したというお話をさせてもらいました。

    さて、前回隠していたある条件とはなんなのかというと高温高圧という条件です。どうしてこの条件で進むかはルシャトリエの発見したルシャトリエの原理を考えれば当然の結果だと言えます。

    ん?いやいや、ルシャトリエの原理で考えたら低温高圧条件でしょ! と思った人もいるでしょう。はい。その通りです。この反応を考えると高温よりも低温のほうが進行します。

 しかし、なぜ高温なのでしょうか? これは低温だと熱運動が小さくなり、分子同士の衝突が減ってしまい、結果的に反応が逆に遅くなってしまうからです。温度を上げて、ぶつかる頻度を増やしてあげることで反応を進めやすくしています。とは言っても、上げすぎると反応は進行しにくくなるので程よい温度を狙う必要があります。

ネルンストの批判

    前回、ネルンストは0.003%に対してハーバーは0.01%生成に成功したという話をしました。ネルンストはそんな多く生成するわけがないと大批判したという話もさせてもらいました。実際どっちが正しかったのでしょうか?

    ネルンストは50気圧(大気圧の50倍),1000℃の環境で0.003%生成したと報告しました。ハーバーは1気圧,1020℃で0.01%生成したと報告しました。先ほどの話を踏まえるとネルンストの方が生成しやすそうな感じがしますし、批判しても仕方がないかなという感じです。

    さて、ハーバーは正しいのでしょうか?正しくないのでしょうか? この問題を解決したのが日本人の田丸節郎です。彼はネルンストの研究室で研究をしたのちハーバーの研究室で研究をしました。彼らの反応でどのくらい熱が出ているか、出てくるガスの特性などを調べて正確な生成量を計算することに貢献しました。その結果、ハーバーのいう0.01%は事実であり、ネルンストの0.003%の方が不正確だということがわかりました。

    ちなみに田丸節郎は東京工業大学の初代図書館長です。やはり日本トップクラスの大学にはすごい人がいるものですね……

 

ハーバーの合成法の工業化

    前回お話しした通り、ネルンストの0.003%では工業化は不可能だと言われていました。あまりにも採算が取れなすぎるということです。

    しかし、ハーバーや田丸節郎の研究により0.01%ぐらい作ることができるということがわかりました。もしかすると改善次第で工業化できるのではないかというような感じです。

    さあ、やっと人口爆発に耐えるであろう肥料生産ができるぞ!というわけです。こうして、人類は危機を逃れたのでした。めでたしめでたし。

 

工業化の難しさ

    と、終わったかのように書きましたが、まだまだ続きます。

    ハーバーの方法の条件はなんだったでしょうか。高温高圧という条件です。これが実はとんでもなく厄介な問題です。

    高温でも耐える反応させる機械を作らなくてはならない、高圧でも耐える反応させられる機械を作らないといけない。これは非常に大きな問題です。

    前回、ルシャトリエは助手が亡くなったこともあり断念したという話をしました。原因は高圧の装置が爆発したためです。人が簡単に吹っ飛ぶようなそれぐらいの圧力が必要になってきます。

    工業化は単に作ればいいというわけではありません。採算を取れるようにしないといけません。誰も死なないとしてもしょっちゅう爆発されては採算がとれるわけがありません。

    壊れるということだけが問題ではありません。高温高圧になれば目的の物以外の反応も起きます。自分が入れた原料が反応をさせる容器の壁と反応するなんてことも起こります。それでは目的の物以外がどんどん生まれてしまいロスが大きくなります。

    つまり、ハーバーの方法を単に大きな機械でやれば工業化出来るというわけではなく、ハーバーの方法に耐えうる大きな機械を作らなくては工業化出来ないということです。

次回予告

    日本人の田丸節郎の功績もあり、ハーバーがついに発見した空気から窒素を捕まえる方法。これで肥料が作れる! 人口爆発に耐えれる! と思いきやそこには工業化という大きな問題が。次回は工業化を成し遂げるために動きだしたある人物が登場します。このシリーズもやっと終わりが見えてきましたね。

 

次回はこちら!!

ハーバーボッシュ法 その5 〜ハーバーボッシュ法の確立〜 - じょんのかがく喫茶